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IRON HEART
 2004年11月03日 東京・後楽園ホール 観客動員数:1460人
第1試合 林ひとみラストマッチ シングルマッチ30分1本勝負
シュガー佐藤 林ひとみ×
(6分14秒、雷電→片エビ固め)
この試合がラストマッチとなる林は、ゴングがなるやジャイアント・スイング。
最後にして最高の回転数とスピードでシュガーの巨体をブンブン振り回す。
化粧回しではなく、ノーマルのガウンで登場したシュガーは、林の技を受け止めながら、2回転ネックブリーカー等で反撃し、体当たり合戦は一度は林に吹っ飛ばされるが、終盤、意地で林を吹っ飛ばし返す。
林はリバーススプラッシュ、スパインバスター、そして“一度溜めてからグイッと持ち上げるブレーンバスター”でシュガーを投げきるが、最後はシュガーがボディアタックから雷電で圧殺してカウント3。

シュガーが林の手を挙げてリングを去ると、林はマイク。
「今日はご来場ありがとうございました。既にご存知だと思いますが、今日でGAEAを退団します。昨年の2月に入団した時、私はプロレスのことを何も分かりませんでした。人前で自分を表現することも苦手で、自分で選んだ道なのに後悔したこともありましたが、今年の1月にデビュー出来たのはGAEA JAPANという団体、先輩、ファンのみなさんのお陰です。ここにいなければ知ることの出来なかった痛みや悔しさ、勇気とか感動を知ることが出来て幸せでした。本当にありがとうございました。」

メイン後に発表した長与・飛鳥の“引退”と同列で語れないことを理解し、“引退”ではなく“退団”という言葉を使った林。
その淀みのないしっかりとした口調は、次なる未来への確固たる意思を感じさせた。
最後は花道でリングと観客、先輩選手に深々と一礼。
誰もが可能性を感じた大器は、わずか11ヶ月でリングを去った。

第2試合 GAEA NEO SOUL BATTLE シングルマッチ15分1本勝負
カルロス天野 水村綾菜 ×/デビュー戦
(11分00秒、腕ひしぎ十字固め)
GAEA最後の生え抜き選手となる水村綾菜は、愛知出身で弱冠16歳。
上背はないが、太ももが太く、そのボディラインはデビュー当時の加藤園子を感じさせる。
序盤はグラウンドの展開。技術的には天野にかなうはずもないが、しっかりと食らいついていく。また、気迫がダイレクトに伝わるタイプで、エルボーで打ち負けても「くそったれ!」と打ち返していくと観客は大きな声援。
天野は強烈なワキ固めからアンクルホールド。耐えてエスケープした水村だが、足首へのダメージでロープワークが出来ず。しかし、天野が不用意に起こしにいくと、下から腕を取って三角絞め。更に首固め、逆さ押さえ込みを絶妙のタイミングで決め、あわやのシーンを作ると、中腰のままびっくりした表情をする天野に、お構いなしのドロップキック3連打で追撃。
水村一色の場内の声援に「やりにくいなぁ」といった表情を浮かべた天野は、フライングラリアット、ミサイルキックで決めにかかるが、水村はいずれもクリア。そして天野の隙を突き、スタンドの肩固め。そのままグラウンドに引きずり込んでグイグイ絞ると、天野は泡を食ってエスケープにいくが、水村は密着して離れず。長時間の絞め上げに館内の熱気は更に上がるが、天野はなんとかエスケープ。
気づけば観客はおろかセコンド陣(KAORUまで!)水村に声援。ブーイングの中、天野はエルボー、ジャンピングエルボー。最後はそれでも気迫で突っ込んでくる水村に飛びつき十字を決めてギブアップ勝ち。

水村の気迫と、天野の懐の深さが作り上げた、名勝負とは違う、何年に一回しか見られない類のプロレス。
選手と観客の気持ちがシンクロすれば、華麗なテクニックや派手な大技がなくても“いいプロレス”は生まれる。

第3試合 シングルマッチ30分1本勝負
×広田さくら 吉田万里子○
(7分46秒、ギブアップ)
果たして、吉田を笑わせられるか…。
北斗、里村以来の堅物登場に、広田は悲壮な決意で試合に臨む。
名曲“FABLE”とともに独特の緊張感を漂わせながら入場した吉田だが、
続いて広田が吉田のコスプレで入場し、ガッツポーズを真似すると…あっさり陥落。

吉田のグラウンドを異常に警戒する広田は「逃げんなよ!」と言われると「間合いを取ってんだよ!」
これで吉田、2度目の陥落。
スタンドでリストを取られた広田は、恐怖の表情でセコンドの長与に「どっ、どうすればいい?」とアドバイスを求める。 長与は「回れ」と、前方回転して逃れるよう指示するが、勘違いした広田は吉田の周りをグルグル回る。
これで吉田、3度目の陥落。
ついにグラウンドに引きずり込んだ吉田。独壇場かと思われたが、広田は気持ち悪い動きで逃れ、何と吉田からマウントを奪取。…というか、尻ごと顔面に乗っかる。さすがに怒った吉田が再び関節を狙うと、広田は逃れるどころか、グラウンドの展開でときメモやボ・ラギノールを狙うという奇策で反撃(ついでにどさくさまぎれにヒザ十字狙い)。あの吉田がグラウンドの展開を嫌がる。
この“グラウンドときメモ”はある意味、寝技の技術革新。総合では反則なのだろうか…。

スタンドに戻ると、吉田はペディグリーの体勢へ。体を入れ替えて逃れようとした広田だが、入れ替えすぎて結局元のペディグリーの体勢に戻り、顔面からグシャリ。めげずに何とエアレイドを狙うが、これに怒った吉田は顔面パンチ。更に吉田はロープに走ってケンカキックを狙うが、広田はカウンターで蜘蛛の糸をブワッ!そこからお互い糸に絡まったまま、ハバネロ・プリン、へなーラを繰り出し、吉田を追い込む。 しかし、広田がロープに走ると、待っていたのはカウンターの強烈なケンカキック。勝利を確信した吉田がクモ絡みの体勢に入ると、場内にも決着の空気が漂うが、広田はまたも気持ち悪い動きで必死に抵抗。が、もがいているうちに変な体勢に陥ってしまい、結局、ギブアップ。 試合後、広田は「(水村の試合の)純粋な空気を汚して悪かった。けど、これが私が9年やってきたなりの姿なんだよ!悪いか?」と絶叫し、吉田と記念撮影。明日また生きろ。
さて、吉田の独特のボディ・ディテールを再現するため、終始胸を張り、腹を引っ込ませたまま試合をした広田。その状態のまま8分近く動き続けることが、どれだけ辛いことか…本人の名誉のため、ここにもう一つの戦いがあったことを一応、書き記しておこう。まあ、基本的にはムダなことなのだが。

第4試合 タッグマッチ30分1本勝負
浜田文子 アジャ・コング
豊田真奈美 アメージング・コング
○アジャ・コング(15分23秒、裏拳→片エビ固め)豊田真奈美×
GAEAのタッグ王座からは陥落したものの、ダブル・コングの勢いは衰えず、特にアジャの打撃が重い。
一方の豊田&文子は豊田がアメコンをジャーマンで投げたり、文子がケブラーダを見せるなど、単発ではいい動きを見せるが、全体を通して見ると、いささか動きに精彩を欠く展開。アメコンの裏拳がアジャに誤爆し、豊田がサイクロンを決めたところが勝機だったが、これはアジャがクリア。
逆にダブルコングはアメコンが豊田にスパイラルボムを決めると、そこにアジャがすぐさま重爆エルボーで落下し、一気に素手裏拳を叩き込んで豊田からカウント3。勝負どころの集中力はさすがと言える。

セミファイナル タッグマッチ45分1本勝負
シュガー佐藤 植松寿絵
カルロス天野 輝優優
×カルロス天野(13分08秒、ジャックナイフを切り返して→エビ固め)輝優優○
「試合を通して何かを伝える」
よくプロレスラーが口にする言葉だが、全ての試合で何かを伝えるというのは、現実的には酷なことだろう。それでも、何かを伝えるべき試合、伝えなければいけない試合というのは必ずある。“所信表明”をした直後ということを考えれば、確実にこの試合はそうであったように思う。
林のラストマッチを務めたシュガー。水村のデビュー戦を務めた天野。
精神負担の強い試合をこなした後ゆえ、モチベーション的にはキツかったことと思う。
後ろに控えるのはクラッシュvs極悪。バリューの勝負になれば勝ち目はないこともわかりきっていた。
それでも、時流を考えれば来場者の顧客満足上のメインはこっちであるべきだったし、何より顧客ニーズはその“気概”だったと思う。
テクニックのアベレージは決して低くないし、フィニッシュに至るエビ固めの切り返し合いはお見事。
ただ、試合を通して何かを伝えるという意味では、何も伝わってこなかったというのが正直なところ。

メインイベント 6人タッグマッチ60分1本勝負
長与千種 ダンプ松本
ライオネス飛鳥 シャーク土屋
永島千佳世 ZAP・T
○ライオネス飛鳥(21分12秒、逆回し蹴り→片エビ固め)シャーク土屋×
土屋の入場に続き、ダンプ、ZAPがサソリを引き連れリングイン。ダンプはいきなりレフェリーのtommyに一撃。
単独で入場した永島に4人がかりで奇襲をかけ、そこにクラッシュが駆けつけたところで正式開戦。
ダンプは竹刀で選手・セコンド・レフェリーを蹴散らし、場外で長与の額にハサミを突き立てる。
リングに戻っても竹刀、フォーク、一斗缶、チェーン、サソリ、ダンプ出入口と書かれた“建て看”と、あらゆる凶器を投入し、ZAP、サソリと共に凶行三昧。その暴れっぷりは一言で言えばメチャクチャ。土屋は序盤は自分を抑えながら、そのメチャクチャ加減をうまくコントロールしていた。この2人はヒールながら、色は正反対。ちょっと変な表現だが、ダンプが陽なら土屋は陰。凶器にしても“痛めつける”という最終目的は同じながら、アプローチの仕方や哲学はまったく異なる。
長時間劣勢が続いた長与組だが、長与がダンプにコブラツイスト、更に長与、飛鳥、永島のトリプルのサソリ固めで反撃(この時、リング下で誰かがサソリにサソリをかけていればカンペキだったが…)。一時は再びペースを奪われた長与組だったが、ZAPの“建て看”、土屋のラリアットの連続誤爆から、ダンプに対し、ダブル正拳、永島のフットスタンプ、飛鳥の机フットスタンプ、逆回し蹴りの波状攻撃。だが、サソリが乱入してフォールカウントをカット。永島もZAPに対して雪崩式フランケン、前宙フット、フィッシャーマンと正攻法で攻め込むが、フォールは奪えず。
終盤、土屋は飛鳥を鎖でロープに固定して施錠し、その鍵を見せつけてから無造作にリング下にポイッ。セコンド陣が慌ててリング下を探すが、鍵はなかなか見つからない。その間に土屋はガソリンを飛鳥の体にかけ、火炎噴射の体勢に入るが、これは何とか長与が阻止。 最後は孤立した土屋に永島のミサイルキック→長与のニールキック→脱出した飛鳥の逆回し蹴りが連続ヒット。ZAPがカットに入るが、竹刀での一撃が土屋に誤爆し、飛鳥が土屋に再び逆回し蹴りを叩き込んでカウント3。
敗れたヒール軍は「これで終わったと思うなよ」と捨て台詞を残し、乱戦の中でもその存在を消されなかった永島はグッと片手を挙げて退場。そして血まみれのクラッシュはリング上に残り、引退を告げるために静かにマイクを取った。