GAEAISM ―Decade of quarter century―

ぴあ『月刊スカパー!4月号』長与千種選手インタビュー完全版

長与千種選手

里村というフィルターを通してお客様に挑むので、4・15は試される

――今回のGAEAISMは、先にプロジェクトが持ち上がったところで「仕掛け」を考えていた長与さんが運営として参画するという形ですが、このプロジェクトが発足する以前から、いつかはGAEAの名を復活させたいと考えたことはあったんでしょうか。

長与 里村(明衣子)のストイックさを見れば見るほど、自分が叩き込んだイメージもあるし、赤を継承しているイメージもあるし、GAEAってすごかったんだなというのが常に自分の中でついてまわっていたけど…すべては事のタイミングですよね。再び生まれるべくして生まれたかなという。女子プロ業界も驚きがあった(ブシロードのスターダム買収)、けど、そこに乗っかろうというのはまるでなくて、横斜め後ろにくっついていこうと。それで爆弾にするには何が一番いいかとなった時に…(このタイミングで話が来たら)GAEAしかないなとは考えました。まったく色が違う方が、向こうにとっても面白いんじゃないのと。ここがいいタイミングなんだと思いました。

――それは長与さん自身のきゅう覚ですよね。

長与 なんの確約もなくて、絶対にこうなりますというのはないんです。完全に感覚。常に自分の勘しか信じてないし、プロレスで計算すると毎回裏切られるので、ここは直感頼り。心地よく裏切られればいいんだけど、ちょっとこれは具合が悪いんじゃないという裏切られ方もあるので、プロレス界の“絶対”は信じないようにしています。

――長与さんからではなくほかの人間から起ち上がったということは、解散から15年が経った今でもGAEAの名が息づいていたことになります。

長与 そうですよねえ。GAEAという名前を出された時は迷いもありました。ただ、爆弾はいくつも持っていた方が面白いし、いろんな形の打ち上げ花火が夜空を賑わす時代になってきて、ノスタルジックなものもあれば派手なキャラクターものもある中に、GAEAというものを打ち上げたら面白い化学反応が起こるかもしれないし、継承するというドラマティックなものがきっとそこに見え隠れする。単なる単発モノではなく、時代を紐解いていくと全部がくっついているよというものをちゃんと味見してもらおうと。15年も上手に寝かされていたようなものじゃないですか。

――里村選手が育てた橋本千紘、長与さんが育てた彩羽匠といった選手が出てきたからこそ描ける歴史や物語はあるでしょうね。

長与 歴史は内輪モメが一番面白いんですよね。城は外敵からは崩れないけど、内側から崩れていく。その中で誰が徳川家康で、織田信長で、明智光秀は誰なのか。前田慶次のようなうつけ者が本当に出てくるのかとか。GAEAと聞いた時にまずチケットが欲しいと言った人たちが「最前列が欲しい」と言いました。そういう人たちはリアルタイムでGAEAを見ていて、そこからで動画で知っている層、情報としてだけ知っている層、名前しか知らない層…徐々にファン層が分かれてくる。そうした(歴史もファン層も)バームクーヘン状になったものを私も見たいと思っていて。

――言われてみればその歴史層はまだ形になっていないですよね。時代時代に里村選手たちも描いていましたけど、バームクーヘン状に一つのものにはなっていない。

長与 そうなんですよ。それを自分が見たい!だけに収まればよかったんですけど…面白いですねと言った次の瞬間には、さすがGAEAですよ。「やるでしょ?」って言われて。12月にもうコスチュームは脱ぐといったばかりなんですって言っても「あれは去年のことでしょ。あなた自身はわかっていないようだけど、あなたが脱ぐことは周りが許さないから」って返されました。いや、本当に体がシンドいんです。昨日もおとといも若い子たちの練習に付き合っていたんですけど、筋肉痛で朝方に体が吊るんです。55歳は本気を出しちゃいけないんだと思いましたね。脚が吊ってどうしようもなくて、でも体が覚えているんでしょうね。今回は組むんですけど、里村明衣子とは、組むのも当たるのも覚悟が必要で。今や世界を股にかける女子プロ界の横綱で、神の紅い人と書いて“しんく”という感じじゃないですか。彼女というフィルターを通してお客様に挑むことになると思うので、楽しみではあるけれど4月15日は試されるなと思います。ちょっとは遠慮してくれてもいいと思うんですけどね。

――それは周りに言ってください。

長与 「遠慮は敵だって長与さんから教わりました」って言われてしまって。いや、それでもトシもトシなんだからって言ったら「大丈夫です。自分が持っていきます」と言われてちょっとカチンと来て「いや、ダイアモンドは傷つかないよ」ってボソっと言いました。負けても傷つかないよって。

――そこは意地を張るんですね。

長与 頭の中の感覚を研ぎ澄ませて勝負を懸けていくつもりですから。そのスタートがGAEAISM。ただの同窓会ではなく、未来をしっかりと見据えたものであります。

――常々「仕掛ける」という言葉で匂わせてきた長与さんですが、その中では自分自身がプレイヤーとして動くことは想定していたのでしょうか。

長与 それは想定外でした。(プロジェクトに同意して)GAEAを生き返らせようとは思いましたけど「あなたに責任があるから」と言われて「ああ、私なのか」と。GAEA JAPANというフレーズは、興行としては一回だけだと思います。だから見逃し厳禁。なぜ一回きりかというと、15年分を一瞬だけ生き返らせるマジックなので。夜中の12時を超えると一瞬にして消えちゃう。その中で過去と今と未来が見えれば、次の仕掛けも面白いとなる。私の頭の中には夜中の12時以後の風景があります。ISMには終わりがないと思っているので。復活の記者会見をやった時に、GAEAのフラッグが壁にかけられたのを見て、あまりに懐かしくて自分と里村で匂いをかいでいました。15年前に使っていたものが残されていたんです。血がついているところが見つかって、これ誰の血だろうと思いながらそれさえもいとおしくて。活動したのはたった10年ですけど、その中で主役が毎回変わって、役者が揃いすぎていました。その人たちをまるっと包んだのが、このフラッグだったんです。今回、メインイベントの試合次第によっては、次なる爆弾を投下してもいいかなと思っています。

「名プレイヤー、名選手を作れず」に反発 全女・松永会長に「任せて」と言った

――よくもまあ次々と爆弾が思い浮かぶものですね。

長与 好きこそものの上手なれじゃないですけど、たまにロッシー(小川氏)が「俺のプロレス頭か千種のプロレス頭のどっちかだよね」って言い方をしてくれるんです。彼のことは嫌いじゃなくて(クラッシュ・ギャルズ時代に)マネジャーをやってくれていて、たぶん一番ちゃんと喧嘩ができる関係なんです。だから、彼のところには堂々と胸を張っていける。ただ、年齢的に寝ないで考えることは彼にはできないはず。私はまだできる。だからプロレスのことは常に考えますね。最近は1週間ぐらい引き籠って、過去と未来をつなぐドットを探しています。それがうまく線になっていく。80年代からさかのぼりますね。

――それは自分の記憶をさかのぼらせるわけですか。

長与 そうです。記憶の中にあるプロレス界で起こったことをさかのぼるんです。だって、プロレスの出来事って、実はループしているだけなんですから。金の雨を降らせるって、2000年にはクラッシュがドル札を巻いてやっていました。ということは、あまり変わっていないんです。

――フォルムにどうオリジナリティーを加えるかですよね。

長与 その時代に起こったことが影絵のように浮かんできて、これをどうもう一回持ってこようかなということですよね。今の若い子たちに当時のGAEA JAPANを見せるとビックリするんです。「こんなことをやられていたんですね!これはずっと見ていないとわからなくなります」って。『ドクターX』と一緒。そういうのがプロレスの面白さなんだよと教えます。GAEAの時は(当時の若い子たちに)全日本女子プロレスを見せて、同じように「こんなことをやっていたんですか!?」となった。GAEA JAPANの旗揚げ戦はまんま、自分が全女で学んだことを出しただけなのに“驚異の新人”と言われたのを思い出しますよね。自分たちが1980年頃にやっていたことをやっただけなのにすごいと言われ、今の子たちにGAEAのことをすごいと言われ…だから回っているだけのことの要所要所を、タイミングよく押さえていく。

――GAEA JAPANで指導者とプレイヤーの二足の草鞋を履くようになった中でお手本にした指導者はいたんですか。というのは、それまでの常識では括れない全女文化をそのままやったら、時代性の違いもあって成り立たなくなるじゃないですか。

長与 GAEA JAPANを創る前まで、つかこうへいさんのところでお芝居をやっていて、彼の考え方やものの作り方、音の入れ方にいたるまでが斬新で、とてもインスパイアされました。何十人も舞台にいる中で、たった一人を際立たせるために絶対ほかの人間は動かさない。「言葉をちゃんと伝えるには、ほかの人間がクサい芝居をやるもんじゃない」と。一人を目立たせる方法だけでも、すごい数のツールを持っている方だったんです。それはけっこう全女からGAEAへ流れる時に大きかったですね。あとは多団体時代の中にもう一つGAEA JAPANという団体が増えるとなった時に、全日本女子プロレスの育ての親たちから「名プレイヤー、名選手を作れず。おまえはそれだから」と言われたんです。最初は意味がわからなかったのが、じわじわ来た。そこで思ったのが「全女潰そう」だったんです。

――全女を、潰す。

長与 こんなに偉そうにさせてしまったのはきっと自分の責任だっていう、ヘンなことを考えちゃったんですね。本当はそうじゃないんですよ、みんなの力でそこまで大きくなったのはわかっているんですけど「おまえの代わりはいくらでもいるんだから」と言われてスイッチが入った。名選手はいい指導者になれないからなと言わせてしまう会社にしたのは私だから、私自身が心地よく潰せばいいと。本当にそう言いにいったことがありましたね。「GAEA JAPANという団体を作るので、全日本女子プロレスを潰しますから」と。

――松永高司会長にですか。

長与 国松さん(会長弟)もいましたね。「あなたが育てた子に潰されるなんて本望じゃないですか。それほどの化け物を育て上げたと胸を張ってください」って。まあ潰せたかどうかはわからないですけどね。周りが下がって、GAEAだけがその位置に立ち続けていただけなのかもしれないですけど。(あの頃は)プロレスに対し緻密に考えていましたね。どんぶり勘定で大雑把にやることが強みの全女を潰すには、針の穴を通すように真逆なやり方をしていました。でも…あとで謝りにいきましたよ、松永会長のお通夜の時に。お通夜だけどお願いして昼からいかせていただいて、土下座しましたね。悪いと思ったからではなく、「任せて」って言いました。それも、なんの確証もないのに。(松永会長は)もう一度、横浜アリーナでやりたかったそうなんです(同会場のプロレス初使用は全女であり、伝説の1993年4月2日の女子プロオールスター戦も横浜アリーナ)。それを千種に言っておいてくれっていうのが娘さんから聞いた私への遺言だったそうです。非常に重くて、そこまで踏まえて責任を取るのがやった人間の負うべきものだと思うし、だとするならGAEA JAPANを10年間ではありますけど最後までガッチリと固めて、去る時もスパーンと終わらせたというのは、自分なりの答えというか。インパクトは確実に残せたと思っていますからね。

――「任せて」と言ったことで、プロレスから離れられなくなったのでは。

長与 本当は…たまにゆっくりしたいと思う時があります。私だって普通にプロレスを見にいきたいと思うことはあるんですけど…やめられなくなっちゃいましたね、本当に。ヤバい人生。

イヌイットと生活するような環境にしないとプロレスから抜けられない

――間に離れていた時期はあるにしても、デビューから40年もプロレスにかかわっています。

長与 どうかしていますよね。今の子たちは“何連戦”という言い方をするんですけど…「今週は試合が4連戦である」みたいな。でも、私たちの頃は連戦なんていう区切りはないわけです。年間310試合やった時もあったぐらいですから。それを全女で10年弱続けてきて、そのあとGAEA JAPANをやって、そのあとにマーベラスをやってといううちに、もうプロレスのことしか考えちゃいけない頭になったのかなって思う時があります。仕掛けるとかドラマティックなことを考えるのが嫌いじゃない。

――むしろ人を驚かせることが好きですよね。

長与 そうなんですよね。物作りやドラマティックなものが好きなんでしょうね。それはこの40年によるものです。

――プロレスによってそうさせられましたか。

長与 いや、もうプロレスって怖い。人格さえも、変えられてしまう。ここまで来たらプロレス界の生き字引ではなくプロレス界の生き地獄ですよ。

――生き地獄!

長与 心地のいい生き地獄ですよ。地獄って、テーマパークじゃないですか。針山があれば血の池があったりいろんなトラップがあったり。それはやる側には苦しみを与えるものなんだけど、一方で見る側には楽しかったりするものでもあると思っています。

――穏便な人生になかなかたどり着きません。

長与 4月15日が終わったらちょっとはゆっくりできるなと思っていたんですけど、次はマーベラスの周年記念大会が入っていて、そっちも何かしらの仕掛けを考えているので。そのあとに、ささやかな休息は欲しくて…本気で婚活をしようかと。

――それはいいことです!

長与 ホントにすいません、そろそろさみしくなってきたかなというのがあって。去年のクリスマスあたりにこのへん(GAEAISM事務局のある表参道)をウロウロしていたんですよ。腹が立つぐらい恋人同士がいて。

――それはそうですよ、場所が場所ですから。

長与 イルミネーションですよ。黙って船橋(マーベラスの事務所)にいればいいものを、何してんだよ!って思うぐらいに見せつけられて、これは本気で婚活したいなと思って。

――それぐらいのことをやらないとプロレスから抜けられないですもんね。

長与 でも、たぶん言うことを聞く男性じゃないと無理だと思うんですよね。私の好きなことをさせてといったら、私を手の平の上で転がしながら好きなことをさせてくれるぐらいの人だとありがたいなあと。

――好きなことをやらせてもらったら、結局はプロレスになってしまいますよ。

長与 あ、そうか。でも、そういう女を面白いと思ってくれる男性がいるかもしれない。そんなこと言うとディスられると思うんですけど。

――長与さんが婚活してディスられることなんてないですよ。

長与 それが…去年のエイプリールフールに入籍しましたってツイートしたらバズっちゃって。こんなに祝ってもらえるものなの? 申し訳ないなーと思ったんです。4月1日っていうのは、本当は嘘をついちゃいけないんだよっていうのを改めて知った日ですね。だから、次は嘘じゃなくてね。爆弾を思いついちゃうから時間がなくなるっていうのはわかっているんですけどね。この間も高速のサービスエリアで寝ちゃいました。

――クラッシュ時代と変わらないじゃないですか。

長与 そういう時って笑っちゃうしかないんですよ。何やってんだ、自分?とか思いながら笑って『傷だらけのヒーロー』を聴きながら車を運転している自分がいる。

――プロレスの何がそこまでさせるんですか。

長与 プロレスラーって、あんな体をしているのに人見知りが多くて、でも、そういう人がもう一人の自分を作り上げるのが、メチャクチャ面白い。人前に出たら、さっきまで控室にいた人と全然違う人がリングにいる。私たちは、控室に帰ってきたところも見るじゃないですか。シューズを脱いで、ニーパットを外して、コスチュームを脱いでって、一枚一枚皮をむくように、また元に戻っていっているのがわかるんですよ。リング上ではみんなが、こうなりたいと思っている自分になれる。それって、素晴らしいじゃないですか。それを続けられるだけ続けて、もうできないとなったら現実に戻って結婚したり。私も誰かストップしてよと思うことはありますけど…。

――誰も長与千種にストップをかけられる人間はいないのでは。

長与 そうなんですよね。だから海外なのかなと思う時もあります。海外の男性と結婚するとか。

――劇的に環境を変えなければ難しいでしょうし、また日本にいる限りは求められるでしょうね。

長与 だからね、イヌイットの人たちと何かを追っているような生活をしないと…。それでもオーロラを見ていたら、またそこからイメージが膨らんできちゃうと思うんで、アザラシを狩って生活するような環境まで自分を持っていかないと抜けられないだろうなと思います。(2020年3月6日収録)

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※取材・原稿/鈴木健.txt 取材協力/GAORA SPORTS
現在発売中のスカパー!番組ガイド誌『月刊スカパー!4月号』(ぴあ発行)では、
連載「鈴木健.txtの場外乱闘」にて長与千種選手のインタビューが掲載中です。
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